Mag-log inその頃、ミーナ達はグレンとカイルが乗った馬車と離れてしまい、現在は残った人達を騎士団達は馬車の外に集めさせた。
しかし、集められた一般の人達は数日前の事件から現在まで散々な目に遭っている為不満が高まっているのか騎士団の人達に文句を言っていた。 「どういう事なんだよ!馬車が無くてどうやって移動するんだ!」 「お前ら騎士団だろ!俺たち今物凄く困ってるの見てわかんねーのかよ!」 「そうよ!私達はこれからどーなるのよ!」 「何とかしろ!騎士団だろ!」 口々に罵声を飛ばす一般の人達。無理もない。つい数日前までは平和に過ごしていたのだ。 急にこんな事が続けば誰だって普通じゃいられなくなる。 しかし、一般の人達はそれ以上に耐えられない事があった。 それは。 「そもそも!なんでそこにいる盗賊どもは殺されてないんだ!そんな奴らさっさと殺しちまえよ!」 そうです。今回馬車を襲撃した盗賊、エミル達がいるからである。 エミル達の事はミーナがエバルフに事情を話して分かってもらえたが他の人は納得いかない。 自分達をこんな目に合わせた盗賊を何故生かしているのか理解できないでいた。 「こいつらのせいで沢山の人が死んだんだぞ!」 「そうだ!そいつらにも同じ目に遭わせろ!」 「殺しちまえよ!そんなクズ盗賊なんて!」 「みなさん!お気持ちは分かりますが…どうか落ち着いてください!」 「うるせー!そもそも騎士団がしっかりしてねーのが原因なんだろーが!俺たちこれからどうしたら良いんだよ!」 一般の人達の怒りはもはや誰にも止める事が出来ず、他の騎士団達も困っていた。 エミル達はそれを只々うつむきながら聞き、ミーナはそれを見て悲しそうな顔をした。 「エミル…さん…」 すると1人の男性が騎士団の人を押しのけてエミルの前に来た。 「もういい!こいつが主犯だろ?お前ら騎士団が殺さねーなら俺が殺してやる!」 そう言って男性は騎士団の剣を奪おうとするがそれを阻止する為に他の騎士団達が止めに入った。 「おいやめろ!お前らいい加減に…」 「やめないか!これ以上イフリークの伝統に傷を付けるな。」 すると、いかにも高級な衣服に包まれた白髪で凛々しい顔をした中年の男性の言葉で一般の人達は一瞬で静まった。 「い、イフリーク王!」 なんと、その人物というのはイフリークの王であつた。 その男は高価な服装を纏っている割にはどこか威厳に欠けた部分があり、どちらかと言うと王には見えない優しそうな人であった。 男性はイフリーク王を見て驚き、剣を奪おうとする手を止めた。 「その呼び名はよしてくれ。私は5代目国王、ミロゼ・イフリートだ。そなたがこの子を憎む気持ちは痛いほど分かる。」 「…私は、どうしても納得いかないんです!昨日まで…俺たちは普通に暮らしてたのに、何の前触れもなくその"普通"が無くなった…。」 男性は顔を下に向けながら言うと地面に水滴がポタポタと滴っていた。 「何で…何で俺たちがこんな惨めな思いをしなければならないんですか!こんな訳も分からないこの状況を…俺たちは一体、どこにぶちまければ良いんですか!?私達は、どうなってしまうんですか!?」 「…顔を上げなさい。」 男性が顔を上げてイフリーク王を見た。 そして、イフリーク王はみんなに聞こえるぐらいの声で言った。 「皆の者、これだけ言っておく。大切な人の仇だからといってその者を同じ様な目に合わすという事は何の解決にもならない。殺したからって何が変わる。そんなのは自分の憎しみをただ何かにぶつけたいが為の言い訳にしかならない。」 「かと言って、この3人が犯した罪はとても重い。だがその罪は皆が裁くのではない。法に従って適切な罰を与える。それが、人間の世界のルールだ。納得いかないなら今はそれで良い。殺して解決するというのはそこらの獣と変わらんぞ。」 その場にいる全員がイフリーク王が言ったこの言葉の意味をすぐに理解しているとは思えない。 でも、この説得力のある言葉に対しこの後反抗の言葉を言うものはいなかった。 男性は3人の方に視線を向けるとそのまま睨んで舌打ちをしながら元の場所に戻った。 「さて、移動の事だがどうしたものか…ここからシルフまで歩いていくしか移動する手段がない。ここで新たな馬車を待つよりはずっと早いと思うが…」 「い、イフリーク王!歩くって言ったって、ここからシルフまで何百キロ離れてると思ってるんですか!?」 イフリーク王の無茶な言葉にエバルフは驚きながら言い返した。 「第一、食料や水も無しにこの砂漠地帯を歩くのは厳しいかと思われます。それに、このティラーデザートには凶暴な猛獣もいますし国民全員を連れて行きながらはやめた方が…」 「水なら大丈夫…私が何とかするわ。」 シルフの騎士団の声をかき消す様にエミルが口を開いた。 「水は、私の魔法があれば干からびる心配は無いと思う。食料も、騎士団や私達がいれば猛獣を討ち取って他のみんなに支給すれば大丈夫な筈です。以前私もそうやってこの砂漠を越えました。」 「ふざけんな!お前の言葉なんて信用できるか!そう言って俺たちから逃げようって戦法だろ!」 エミルの言葉に耳を貸そうともしない国民の人達にイフリーク王は静まれと言って、国民の人達を黙らせた。 「しかし、どの道この者の水が無ければ砂漠を越える事は無理に等しい。…分かった、エミルとか言ったな?どうか我々に水を分けて貰いたい。」 そう言ってイフリーク王はエミルに頭を下げた。 それを見て他の騎士団の人達は慌ててイフリーク王を止めに入る。 「おやめ下さい!王ともあろうお方がこの犯罪者に頭を下げるなど…」 「馬鹿もん!王だろうと人様に頼み事をする時は頭を下げるもんだろうが。…どうか頼みます。」 イフリーク王はさらに深く頭を下げた。 「はい。私の力で良ければ。」 エミルも照れながら了解した。 「……」「……」 その光景をライクとニケルは何かを思いながら見ていた。 「しかし、お前たちは罪人だ。移動中の間はこの拘束魔具を付けてもらうぞ?」 そう言って騎士団の人達が拘束魔具を3つ持ってきて、それを3人にはめようとした。 しかし、何故なのかライクとニケルは手を前に出そうとしなかった。 「ほら、お前!早く手を前に出さんか!魔具がはめれんだろ!」 騎士団の人が無理やりライクの腕を掴んで魔具をはめようとしたその時。 ガッ! ライクは大きく足を上げると痛烈な蹴りが騎士団の人の顎に直撃し、全員がそれに驚いてる間ニケルも騎士団の腹に拳をぶち込んだ。 その後、2人は全員から距離を取るとライクはワナワナと震えていた。 「…ふ、ふざけんなよ。さっきから好き勝手言いやがって!」 騎士団の人達が距離を取ったライクとニケルを捕らえようとするがニケルの風魔法で2人の目の前に見えない壁が出来て進まなかった。 そしてライクは怒りを露わにしながら全員に言い放つ。 「何が法に従って適切な罰を与えるだ!お前らが月の民にやった事は棚に上げやがって!」 「ライク!何を…」 「お前もお前だ!エミル!前に住んでた国の王か何か知らんがそいつにちょっと褒められたからって良い気になりやがって!お前は俺たちを裏切ったんだよ!」 頭に血が上りすぎて息が上がっているライクの肩をニケルはポンと叩いた。 そして今度はニケルが落ち着きながら全員に言った。 「エミル。僕らはね、君の事を本当の仲間だと思って今日まで過ごしてきた。月の民の殆どが死んでから僕たちは辛い日々だったけど、ライクとエミルがいた事で僕は救われたし、本当の家族のように思えた。」 「だけど、そんな君は僕らよりもイフリークを取った。その事実は僕らにとってどれだけ辛い事なのか…今の君には分からないかもね。」 「……」 エミルは何も言い返す事が出来なかった。 私は、ライクとニケルのお陰で1人にならなくて済んだ。けど、今の私には大切なものを守らないといけない使命がある。 結果的にはライクとニケルを裏切った事になってしまったけど、私は大切なものを守る為に罪を償わないといけない…本当に自分勝手だよ、私は。 「…ごめんね…ッ…私が…自分勝手だから…ッ…ヒグッ…」 「何泣いてんだよ!泣きたいのはこっちなんだよ!」 ライクはすすり泣くエミルを見て腹が立ったのか先程よりも大声で怒鳴った。 「いいか!俺たちの目的はこの世界に復讐する事だ!俺たちの故郷を…家族を奪った世界を…俺たちは絶対に、許さない!!」 「僕もだ。イフリークの王よ、あなたがさっき言った罰を与える。これって、君達も受けるべきだよね?僕たちにした事を考えればさ。まあ、僕たちはもう二度と君たちの思い通りにはならないよ。」 そう言ってライクとニケルは後ろに振り返ると最後にライクが最後にボソッと小さな声で言った。 「エミル、幸せになれよ。」 そう言って、2人は自身の魔法で地面から雷と風を発生させるとその場から一瞬で消えた。 ライクとニケルが去ると、風魔法の見えない壁が消えて無くなった。 騎士団の人達は2人に逃げられたので悔しそうに嘆く。 「くそっ、なんて奴らだ!」 「あんな恐ろしい盗賊を逃してしまうなんて…」 バタッ! エミルはその場にヘタリ込むと両腕で自分の目から流れてくる多量の涙を拭いていた。 それを見たミーナはそっとハンカチを差し出し、これで涙を拭いてとエミルに渡した。 「ありがとう…私、あいつらを…」 「違いますよ、エミルさんはこの国の事を考えていただけです。その為にエミルさんは罪を償う事から始めなければならないと気づかれたのかと思いました。とても厳しい選択だったと私も思いますよ。」 「でも…」 「それに、あのライクって人はエミルさんの事を裏切り者とは思ってないんじゃないですか?だって、あの2人エミルさんの笑顔を見てとても満足そうな顔してましたし。」 「…そんな訳…そうね、そうだったら良いわね。」 「はい!そう思いました!」 エヘっと下手な作り笑いをするミーナにエミルは不意に吹き笑いをしてしまった。 その頃、自身の魔法で超高速に移動するライクとニケル。 「………」 「いつまで泣いてるの、ライク?そんなにエミルと離れるのが辛いのか?」 「そ、そんなんじゃ…って、そういう事だけどさ!…やっぱり、あの国の人らはあいつを必要としてるから俺たちがあいつを裏切り者にして自由にしてやるのが1番なんだよ。」 「プッ…」 「何が可笑しいんだよ!」 笑うニケルに照れながら怒るライク。 「いや、だってさ!君がそんなカッコいい事言ったらこっちがこっぱずかしいし、それに…君の気持ちを考えるとさ…」 「…うるせー!俺は何も後悔なんてしてねーぞ!それに、あいつにはあのカイルって男がいるからな。」 「…そっか。それならもう何も言わないさ。」 「そうだ。今は一族の仇を取る事が先だ。俺達が罪を償うのはその仇が取れた時だ。」 そう言って2人は移動するスピードを更に上げた。 それから私とイフリークの国民達、騎士団の人達はシルフを目指して歩いた。 通常、砂漠地帯でティラーデザートの気温は最高で60℃以上上昇する強烈な炎天下で被覆なしで直に日差しを浴びるのはとても危険。 エミルの水魔法で作ったドーム状の膜を周囲に張っている為気温は比較的マシであるが日差しは防げず皮膚が焼けそうだ。 ドーム状の水の膜は私達の動きに合わせて移動し、国民の人達が歩いてる周りを騎士団達は取り囲みいつ猛獣が現れても戦える準備をしている。 しかし、この炎天下。国民の人達も騎士団の人達も暑さによって足がふらつき、意識がもうろうとして倒れる人もいた。 周囲の人達は倒れた人を助ける元気が無く、みんな自分の事で精一杯な為振り返ろうともせず黙々と歩いて行く。 倒れた人には再び立ち上がって歩く者と立ち上がる事なく移動する水のドームから出てしまい置いてきぼりにされる者もいた。 置いてきぼりにされた者は強い日差しによって皮膚が焼け、体中から熱気が上がっていた。 「アガァッ…アヅイ…ッ…た、助け…で……」 そしてその焼けた匂いが砂漠の猛獣を引き寄せる餌で、倒れた者の大半がこの砂漠の一部となっていった。 私はエミルさんの横で必死に頑張って歩いていた。 エミルさんは砂漠を歩く際に魔法を絶えず消費しなければいけない為、他の人の倍は疲れるはずなのにそんな感じを一切出さずに涼しい顔をして歩いていた。 「エミルさん、凄いですね…暑くないんですか?」 「私は昔から暑さには慣れてるのよ。それに何年もここで過ごしてたから流石に慣れたかな。」 私とエミルさんが話をしていると後ろからカレンさんが声を掛けてきた。 「ミーナちゃん、喋ると余計な体力を使うわ。今は歩く事に集中よ!」 「ごめんなさ~い。」 ミーナは軽くカレンに謝る。 2人は馬車の中で沢山の会話をし、お互い更に仲が深まったので2人とも気を使わない会話が出来る様になった。 年上であるカレンは自分と気の合う年下のミーナに気軽な返答をしてくれた事にちょっと嬉しそうだった。 すると突然目の前の砂の中からサメの背びれの様な物が無数に現れ、その背びれの集団はミーナ達の方に向かって来た。 「何だ!あの魚の背びれの様な物は!無数にあるぞ!」 するとその背びれの集団は全員勢いよく砂から飛び上がった。 「デザートシャークだ!!喰われるぞ!」 デザートシャークとは、砂漠地帯に住んでいるサメの様な姿をしている巨大な猛獣で普通のサメと違い手足がある。 この手足は砂を掻いて移動する他に餌となる生物を鷲掴みにして人が何人も入れそうな口に放り込む凶暴な生物だ。 デザートシャークは口を大きく広げながら国民達に向かって勢いよく飛び込んできたが水のドームのおかげで喰われる事は出来なかった。 「私の魔法である程度水の強度は上げてるが大群で来られたらマズイわ。」 しかし、それを待つ事なく無数のデザートシャークは水のドームに向かって飛び込んで来た。 その威力によって水のドームに亀裂が入る。 「このままじゃマズイ…くっ!」 エミルは走って水のドームから出ると自分の体を纏える程度の水の膜を張った。 デザートシャークはエミルが外に出た事により、全匹エミルの方に向かって飛び込んできた。 「エミルさん!危ない!!」 するとエミルは掌を上げるとそこから水の球体が発現した。 そしてその球体は徐々に渦を巻いていくと巨大な渦巻きに変わり、その渦巻きはデザートシャーク全匹を飲み込んでいった。 飲み込むと渦巻きはデザートシャーク全匹を密閉した水の球体に縮小し、エミルは手で招きながらその球体を自身の近くまで移動させた。 そして移動させた水の球体にそっと触れると球体の中で物凄い振動が伝わり、デザートシャーク全匹はその振動によって意識を失った。 「す、スゲー…あの無数のデザートシャークをたった1人で…」 「これが、団長と同じ神級魔導士の力なの…桁が違うわね…」 エバルフとカレンはエミルの圧倒的な強さを見て唖然としてる中、ミーナは逆にテンションが上がっていた。 「凄い!!これがエミルさんの力なの!?カイル君も凄いけどエミルさんも凄いですね!!」 はしゃぎながらエミルに向かって言うミーナを見てエミルは困った反応をしていた。 「あの子、随分変わってるな…。」 エミルが倒したデザートシャークの肉を騎士団の人達が国民の人達に行き届くように仕分けた。 砂漠を乗り越える為、食べられる時に食べておかないと倒れていった人達の様になってしまう。 ミーナとエミルは貰った骨つき肉をかじりながら2人で一緒に食べていた。 しかし、エミルは食が進まず浮かない顔をしていた。 「どうしたのエミルさん?」 「…いえ、何でもない。」 「あの時の事…思ってたんですよね?」 「……」 あの時の事。それは自分の親友のハンジを操られていたとはいえ自分の愚かな感情を利用され、事実上私が殺してしまった。 それはエミルの中に一生残るトラウマだと思う。 「私はあの時イフリークに帰って2人が仲良くしていたのを見た。その時に抱きしめていたのを見て私はとても胸が苦しかったのを覚えてる。」 「エミルさん…」 「でも、それは別れを言わなかった私が悪かったんだ。誰だって辛い時に側に居てくれたら、その子の事少なからず好きになってしまうもんね…私も、ずっとあいつの側に居てたら…」 「エミルさん、聞いてください。カイルさんはハンジさんの事好きだと思いますけど、それは友人としてです。カイル君の本命は…」 「嘘よ!そんな気休めやめて!」 「嘘じゃないです!カイル君があの日ハンジさんを抱きしめたのは、お互いの辛い気持ちを癒す為に抱きしめてたんです。」 エミルはそれを聞いて疑問に思う。 お互い? 「ハンジさんの親は10年くらい前に他の国へ行ってから行方不明何です。けど、その辛い気持ちを打ち明ける事が出来なくてそれを初めて打ち明ける事が出来たのがカイルさんなんです。」 「カイルさんとハンジさんは別に恋してたから抱きしめてたんじゃなくて、自分の辛い気持ちをそれ以外で癒す方法を知らなかっただけなんです。」 感情というのは時として自分で制御出来なくなる時がある。 そんな時、誰かが側に居てくれるだけで人という生き物は心に余裕ができる。 カイルもハンジもお互いが側に居てくれる事で心に余裕が出来たのかもしれない。 しかし、そこからきた勘違いというのは相手からだと受け入れにくい現実でエミルもそれを受け入れるのに時間がかかった。 それからエミルは気持ちが落ち着くまで黙って食事を取り、しばらくすると騎士団とイフリーク国民の集団は再び砂漠の道を歩き始めた。 この先、何人の犠牲者が出るかそんな事は誰もまだ分からない。 それでも、こんな状況だからこそお互いを支え合っていかなければ…いざとなれば自分を犠牲にしてでも皆を守る! その思いを抱きながらエミルは握り締めた拳を見つめ果てしなく続く砂漠道をひたすら歩いて行く。 一方、グレンとカイルも砂漠道を歩いているがその間2人に会話という会話は殆どあらず黙々と歩いていた。 沈黙の中、カイルが口を開きグレンに向かって言った。 「………なぁ?」 「なんだ?」 「聞きたい事がある。お前と一緒に旅してるミーナちゃんの事でだ。お前、あの子の事どう思ってる?」 「どう思ってる?」 「お前が悪魔祓いになった経緯は聞いてその契約を破棄する事がミーナちゃんの目的だってのも聞いた。お前の心を取り戻す為に頑張ってるミーナちゃんを見てお前はどう思うんだ?」 カイルは前にいるグレンを真剣な眼差しで見つめた。 しかし、グレンは振り返る事なく軽く受け流すように答えた。 「別に、無駄な事する馬鹿な女としか思ってない。あんな脳みそお花畑な奴に俺の中にいる悪魔がどうにかなるわけない。それに…」 「じゃあ、なんでお前はミーナちゃんを助けるんだ?」 その質問にグレンは答えられず、カイルは続けて言った。 「お前は期待してるんじゃないのか?ミーナちゃんに自分の心を救ってくれる事に、期待してるんだろ?」 「下らねえ事言ってねえでさっさと歩け。もうすぐでシルフに着く。」 話を逸らすかのようにグレンは言い前を指差すと遠くから街の建物などが小さく見え始めてきた。 「なあ、お前確か空間魔法使えたよな?あそこまで空間魔法で移動出来ないのか?」 「ダメだ。シルフは四大国の中でも1番警備が頑丈な国。国の周りには結界が張られていて空間魔法といった移動する魔法は全て無効化される。お前、団長の癖にそんな事も知らないのか?」 「だ、黙れ!俺はシルフへは行った事無かったから仕方ないんだよ!」 冷めた目でそんな事も知らないのかと言いたそうな顔をするグレンにカイルは顔を真っ赤にして言い返す。 その時、2人が歩いてる地面に突然大きな穴が空いた。 2人は焦って地面を掴もうとするがその穴はまるでアリジゴクの巣の様に掴んだところが崩れてしまう。 「何だ!?急に地面が…」 「こいつは…ゲイルアリジゴクだ。この砂漠の主と言っても過言じゃない化け物だぞ。早く上がれ、食われるぞ!」 ゲイルアリジゴクの巣は普段は獲物に気づかれない様に巣を地盤で隠しているが獲物が足を踏み入れた瞬間、一気に地盤が崩れ直径50メートルぐらいの巨大なすり鉢状の穴に変わり獲物を捕らえる。 その巨大な穴はアリジゴクの巣と同じで砂を掻けば掻く程どんどん下に落ちていく為、空間魔法を使わない限り脱出不可能とされている。 当然、空間魔法を使えるグレンはとっくに脱出していたのだった。 「あっ!テメェ自分だけずりーぞ!俺も助けろよ!」 「そんな事知らねーよ。そんな事より早く上がれよ。アリジゴクもお前を食べたくてウズウズしてるみたいだぞ。」 下にはゲイルアリジゴクがお腹を空かせているのか中心部から顔を出して大きな二本のアゴを動かして待っていた。 カイルはそれを聞いて冷や汗を流し、思いっきり砂を掻いて上がろうとするが上がるどころかどんどん下に滑り落ちていく。 流石に危ないと思ったのかカイルは鞘から剣を抜いて自身の影を一定範囲広げた。 そして剣を振るとゲイルアリジゴクの二本のアゴが切れ落ち、何とか食われるのだけは回避したが剣を振った勢いで体制を崩して倒れてしまう。 砂が柔らかい為、倒れた直後に顔が砂に埋もれてしまい身動きできない状態になった。 「あのバカ…何してんだ。」 グレンは流石に焦ったのか空間魔法でカイルの所へ移動して埋もれた顔を引っ張り上げた。 「ぷはぁー!助かっ…うぁぁあああ!!!」 カイルが気付いた時には既にゲイルアリジゴクの目の前に滑り落ちていた。 ゲイルアリジゴクは落ちてくる2人をそのまま食べようと口を広げ待っていた。 「ヤバい…こうなったら一か八かだ!」 グレンは最後にそれだけ言うと2人はそのままゲイルアリジゴクの口の中に吸い込まれてしまった。 ……ここは? 意識が薄い中、目を開けるとどう言うわけか自分達を食べようとしたゲイルアリジゴクが今自分達の目の前に倒れていた。 地面もアリジゴクの巣でなく普通の地面に戻っていて一体何があったのかカイルは状況を全然把握できなかった。 「何で俺達を食べようとしてたこいつが倒れてる!…お前がやったのか?」 グレンに声をかけるが意外な事にグレンも分かっておらず無言で首を横に振った。 「俺もよく分からん。俺はこいつに食われる寸前に黒炎をぶっ放して自分だけ脱出しようとしたんだが気がついたらこんな所に立っていた。」 「つくづくお前はクズ野郎だな。そこまでして自分の命が大事か?」 「当たり前だ。」 「ハァー。全く意味が分からねえよ昨日から。もういいや、さっさとシルフへ…」 カイルが前を振り返ると2人は何故かシルフの目の前にいて既に到着した状態だった。 「俺も今混乱してる。空間魔法も使ってないのに何故だ?」 「こっちが聞きてーよ!!」 カイルは混乱しながらグレンに怒鳴っているとシルフの門から1人の女性が現れた。 2人は女性に全く気づいておらず言い合いを続けているが女性は門から出た途端一気に2人の背後に現れた。 「その事については私が説明しましょう。」 「!?」 「なっ!」 2人は背後を取られたのに全く気づかなかった為、慌ててその女性と距離を取った。 女性は髪が桃色の一つに纏めたポニーテールに顔は柔らかい表情だがどこか大人びた感じの清楚な女性。優しそうな人である。 「何だ、この女…」 「明らかに俺らの背後を気づかれずに…」 「びっくりさせてごめんなさい。それに私はー」 女性が優しい表情で2人に何かを言おうとした直後、先ほどまで倒れていたゲイルアリジゴクが目を覚まし女性に向かって襲ってきた。 「おい、危ないぞ!」 カイルが助けようとした直後、2人の体によく分からない不思議な感覚が体中を巡る。 まるで水中で体を動かしてるみたいに動きが遅く感じる。 その感覚が無くなり、気がつくと目の前のゲイルアリジゴクの腹が切り裂かれていて絶命していた。 今のでやっと確信した。俺達が何故シルフの目の前にいるのか…何でゲイルアリジゴクが俺達が気づかない間に殺されているのか…。 それに気づいてるのは俺だけではなく、グレンも気づいている筈だ。 気づいてる筈なんだがグレンは何故かその事について聞こうとしなかった。 「お前がやったのか?まあ助かった、ありがとう。」 グレンは相変わらず口が悪いが素直に礼だけ言った。 「お気になさらず。私はこう見えてもそこそこの魔導兵だから見ず知らずの人でも助けるのは当然です。」 女性はグレンの失礼な態度に怒る事なく、ニコッと笑顔を見せて受け答えした。 「おい、お前聞いただろ!この人はお前に失礼な態度を取られても怒るどころか優しく……いや~、こんな美人で優しい女の人が魔導兵なんて…魔導兵ってまさか…」 「気づくのが遅えよ。…魔導兵っていえばお前ら騎士団とは別の国王直属の警備隊だよな?なんでそんな奴がここにいるんだ?」 それに対して女性は暗い顔で俯いて。 「そうね、その話はまずこの国の騎士団の所でお話ししましょう。ここでは誰に聞かれているのか分からないですから。」 そう言って女性は門の方へ歩き、2人はその女性の後をついて行った。 この国は活気あるイフリークに比べとても静かでそして寂れている感じだった。 まだ昼の時間帯なのに自分達以外で街を歩いているのは他にいなかった。 シルフの騎士団の所へ着くと、グレンが女性に質問した。 「何で騎士団なんだ?お前、魔導兵なら国王のいる宮殿の方だろ普通。」 「説明は後です。では、中に入りましょう。」 そう言って女性は騎士団の門を開け、3人は中に入った。 入ると酒場の様なテーブル席があり、その奥の中央の席には温厚そうな円背姿勢の温厚そうなお爺さんが椅子に座っていた。 お爺さんはこちらに気がつくと女性に声をかけた。 「おぉ、フィナじゃないか。…と、その者達はもしかして…」 穏やかな声でフィナと呼ばれた女性に声をかけると、フィナもそのお爺さんに返答した。 「ええ、その通りよ。バグーラ団長。」 フィナの言葉にカイルは思わず声を出した。 「えー!!もしかして、あなたがシルフの騎士団団長…"鬼騎士"のバグーラ団長ですか!?」 バグーラと呼ばれたシルフの騎士団団長はグレンとカイルの存在に気づいたのか2人に声を掛ける。 「おぉ、そういう君はイフリークの騎士団団長のカイル君じゃないか。」 「俺の事知ってるんですか?」 「勿論。君は騎士団の中でも最年少で実績もあるからね。まあ立ち話もあれだ、ここへ座りなさい。」 バグーラ団長に言われ、2人は目の前の席に座った。 「そういえばこの赤い髪の男は?」 「あれ、あなたは…」 バグーラ団長は隣のフィナに聞くがフィナもグレンの事を知らないらしい。 「俺はグレン。悪魔祓い(デビルブレイカー)だ。」 自分の事を知らないと判断したグレンはあっさり自己紹介するが、悪魔祓いと言った瞬間辺りに居た騎士団の人達が慌てて席から立ちあがりグレンに注目した。 それを聞いたバグーラ団長とフィナもびっくりした表情でグレンを見た。 「あなたが、悪魔祓い?本物…なの?」 「何だ?悪魔祓いなのがそんなに怖いか?」 今までも悪魔祓いというだけで怖がる人や恨んでくる奴はいたがここまで恐怖に満ちた目で見られたのは初めてだ。 するとバグーラ団長が恐る恐る口を開き。 「す、すまない。一度シルフの国民達は君じゃないんだが悪魔祓いの1人に危害を加えられてね…初対面で失礼な態度は分かっているのだが見逃して欲しい。」 「そうなのか。いや、良いんだ。こういうのは慣れてるから。」 「本当にすまない…。」 申し訳なさそうにバグーラ団長は深々と頭を下げて謝った。 するとカイルはフィナの方を向いて口を開いた。 「フィナさん、ですね?先程は助けて頂いてありがとうございました。さっきの事で気になった事があるんですけど。」 「はい、何ですか?」 「さっき俺達はゲイルアリジゴクに食べられそうだったのに気がついたら俺達は助かってて倒れていたのはゲイルアリジゴクでした。それに、さっきもフィナさんに襲いかかった瞬間、俺たちが気がつかない速さでゲイルアリジゴクの腹を切り裂いてました。これは周囲の時間を遅らせていたからですね?」 「つまり、フィナさんは時間を操る魔法を使うんですね?」 カイルが自分の考察を言い終わるとグレンはため息を吐いた。 「ハァー、長々と誰でも分かるような事を…この女は陰陽魔術の1つ、"陽"の使い手だ。時間だけじゃねーよ。」 「私のこの力をご存知なのですか?」 「あぁ、陰陽魔術。この世には森羅万象、全ての万物には互いに相対する存在があり、それは"陰"と"陽"の2つに分けられる。万物の生成消滅、時間と空間、人間の性別などはそれらお互いに違うが片方が無くなれば世界は成り立たず、互いにあるからこそ世界の調和が成り立つ。この思想を元に作られたのが古代の魔法、陰陽魔術だ。」 「素晴らしいわ…初対面でここまで陰陽魔術について語ってくれたのは君が初めてだわ。」 フィナは驚きの表情を隠せなかったがそれ以上に自分の魔法を知っていた事に嬉しさも感じていた。 「そうね、あなたの言った通り私は陰陽魔術の1つの"陽"の力を先程は使いました。時間といった点はカイルさんも正しいですが、"陽"の力はそれ以外ではありません。これを見て下さい。」 フィナは自分の剣が収められた鞘に注目するように指差した。 すると、鞘に収められた剣が一瞬で消えると剣はいつの間にかフィナの目の前に抜かれた状態で宙に浮いていた。 「この様に私が剣を持たずに鞘から抜かれた状態で剣が浮いているのは、剣と鞘を分離させたからよ。あなた達もゲイルアリジゴクに食べられそうになったじゃない?その時も私、この"分離"の力を使ったのよ。」 この分離する力は、合成した物質を分解し元の状態に戻す、または物と物を引き離すといった力でゲイルアリジゴクに食べられなかったのもこの分離の力によって2人とゲイルアリジゴクは引き離されていたので助かったのだ。 「あー、ゲイルアリジゴクに食べられる寸前で俺たちはフィナさんの力によって分離されたのか。」 「そういう事よ。この分離の力は剣を抜くといった動作をしなくても剣が手元に現れるからとても便利なの。」 フィナは宙に浮いている剣を掴み、再び鞘に剣を収めた。 「そろそろ私の魔法については良いかな?」 「陰陽魔術…奥が深いですねぇ~。」 納得しきれていない腑抜けた顔のカイル。 確かに、普通の人じゃまず陰陽自体を理解する事が難しい上に陰陽魔術は学校の授業でも数回しか名前が出てこない為、一般ではあまり知られていないのだ。 「無知に何言っても同じ事だ。とっとと要件を言ってくれ。」 「むっ…ち!…(コノヤロー!!)」 無知と言われたのがショック過ぎたのか妄想でグレンを殴りまくるカイル。 「分かりました。先程にも言った通り、私はこの国の魔導兵の1人なのですがこの国に来てから、何か思うことなどはありますか?」 この国を見て思ったこと。それは、シルフに来てから2人がずっと思っていた事。 「人が出歩いていない。いや、まず人の気配がないし魔力もここ以外感じない。」 「あなた、複数の人の魔力を同時に感知できるの?」 「まあな。」 フィナに褒められても素っ気ない返答をしたため、次の話に移った。 「そう、この国には人と呼べる人は殆どいないの。8年前から、ある魔道士によって…」 「ある魔道士?」 「…12年前、私がまだ見習いの魔道兵だった時に1人の魔道士が国王の宰相になったの。名前はハイド・スペクター。その男の経歴はおろか、どんな魔法を使うのかも不明な謎の男。」 「ハイド・スペクター…聞いた事もないな。」 「噂では人の思考を操る魔法みたいに言われててハイドに関わった人はどういう訳かその人の言いなりの様になってしまうの。」 「思考を操る魔法?そんなの存在しないでしょ。学校でも習った事ないし。」 「確かにカイルさんの言った様に、思考を操る魔法は存在しないし、存在してたら社会的に悪用されるレベルじゃ済まないし。だからこの仮説は多分間違ってるわ。けど、国王の様子が可笑しくなったのはハイドが宰相になってからなの。何故なら…」 「ちょっ、ちょっと待ってください!国王が可笑しくなった?ちょっと話に付いて行けないですよ!」 カイルが会話に割り込み、フィナは話すのを止めると今度は今まで黙っていたバグーラが話に入って来た。 「フィナ様。気持ちは分かるが今はそんな事を伝えるよりもあの事を伝えねば。」 「…そうね、今は国王よりもあの事ですね。」 「あの事ってなんだ?」 「あなた達は月の民の戦争…いえ、あれは殲滅ですね。その事をご存知ですか?」 グレンは知らないがカイルはその頃まだ騎士団に所属していなかったがライクとニケルから聞いていたので話自体は知っていた。 「はい、話だけは聞きました。」 「そう、それなら話が早いですね。ここからはその真実だけをお話ししていくつもりです。」「いつもありがとうね、リーナさん。」「いえいえ、私にはこれくらいの事しか出来ませんので。」カイルの家ではカイルの母親とミーナの母親であるリーナが、皆んなの食事を作って準備していた。クレーアタウンを悪魔に襲撃され、住む家が無くなったリーナは娘のミーナと一緒に居候させてもらっていた。(第34話参照)家族以外の人が増えるという事は家事をする者の負担が増えるという事だが、主婦としての家事スキルが高いリーナのお陰でカイルの母親は物凄く助かっていた。「リーナさんが居てくれるお陰で家事がだいぶ楽になったわ。」「それに、あなたが作る料理はどれも絶品で凄く美味しいからね。今日も頼りにしてるわよ!」「ありがとうございます、カルラさん。」カルラとはカイルの母親の名前である。2人はお互い歳が近い為、普段カイル達が居ない間に家事を早く済ませ、暇になってから色んな話に花を咲かせていた。確かにリーナの料理は作るもの全て絶品であったが、彼女は料理の腕をずっと磨き続けていた。その理由は、いつかアガレフが帰ってきた時に沢山料理を食べてもらう為であった。自分の料理が好きだと言ってくれた夫に、沢山自分の料理を食べてもらう為に。しかし、その願いは叶わなかったが今はその料理の腕が誰かの為に活かされており、それがリーナにとっても嬉しい事だった。そしてカイル達がノーム王のところから帰ってきた。「ただいま帰りました、母上!」カイルが帰ってきた為、玄関から自分が帰ってきたと伝える声が母達の居る部屋まで伝わってきた。廊下からバタバタと多くの足音が聞こえてくる。他にも一緒に暮らしているミーナとエミル、フィナ、ライク、ニケルも一緒に帰ってきたからだ。そして帰った6人は母たちの居る部屋にゾロゾロと入ってきた。「皆んなおかえりー!ご飯もう少しで出来るからね。」「ありがとうございます、カルラさん。私も手伝います。」「私もやります!」フィナが言うとエミルも便乗し、カルラ達の手伝いをしようとした。「ありがとうね。助かるわ、フィナさんにエミルちゃん。2人にはちょっとこのスープの味を見て良い感じに整えて欲しいの。」カルラは殆ど作っていたスープの最終調整をを2人に任せた。フィナとエミルは2人とも料理が得意である為、時間がある時などはカルラとリーナに手伝いを頼まれる事があった。しかし、
………ここは、どこだろう?気付いたらそこは真っ暗な空間にミーナはいた。「ここは…旅に出る前に見た夢の中みたい。夢の中のはずなのに夢じゃないみたいな…」そう。ここは初めてミーナが夢の中で優しい心を持つグレンと出会った場所であった。「ミーナ。」この声は?そう思ったミーナは声のする方を向いた。そこにはあの夢の中で初めて出会った黒髪のグレンが居た。「あなたは、あの時夢の中で会ったグレン?」そう質問すると、何故か黒髪のグレンは涙を流しながら言った。「…お願い…助けて欲しい。」そう言ってグレンは闇の中へと消えていく。「え、ちょっと待って!どこ行くの!…ねぇ!」ミーナは呼び止めたがグレンは何も言わずに消えていく。夢の中で走っていると何かにぶつかる様な衝撃が伝わった。「痛っ!」目の前で誰かにぶつかってしまったのか、ぶつけられた人は痛みを口にした。「…ハッ!…夢か……。」「…もぉ。夢か…じゃないわよ。何時だと思ってるの?」ミーナとぶつかったのは隣で寝ていたエミルであった。時刻は既に午前2時を過ぎており、起こされたエミルは滅茶苦茶不機嫌そうにミーナを睨みつけていた。「ご、ごめんねエミル。変な夢見てしまって…。」「もぉ……」そう言ってエミルは再び布団を被って眠りについた。「(今の夢、何だったんだろ?あの黒髪のグレンが現れたって事は、現実のグレンに何かあったんだろうか?)」「…ちょっと駄目だ…もう、眠い…。」少し考えたミーナであったが眠気には勝てなかった為、彼女もすぐに布団を被って眠りについた。ミーナ達はクレーアタウンでアスモディウスと戦ってから10日程の日が過ぎ去っていた。カイルはクレーアタウンで起きた悪魔との戦いで、カレンが悪魔サイドに居たことを西の大国イフリークの騎士団達に無線で伝えた。騎士団達の反応はそれぞれ違っていたが、全員悲しみに暮れていた。特にエバルフ。彼はカレンととても仲が良かった為、敵となったカレンを聞いて現実を受け止めきれずにいた。イフリークに残った12騎士長は5人4騎士長、ウェンディー・ソルディア5騎士長、シキ・ラインハルト6騎士長、エレンシー・ガーデン7騎士長、アレックス・マーベルそして12騎士長、エバルフ・シュロンこの5人はカイルから聞いたレミールに残った騎士長達の訃報を聞き、後日直接レミー
2人が見た通り、確かにヒスイはグロードを助けた。それは紛れもなくその場で起きた事実である。しかし、2人の記憶による事実と今こうして実際に起きたヒスイが刺された結果が矛盾している。何があったのか?それはベリエルの持つ虚無の魔眼の力が原因である。[あらゆる事象に対する再試行]これはその時に起こった場面を無かった事にし、再度その場面をやり直す事が出来る力。例えるなら、(殴られた→やり直し→殴られる前に戻る。)といった様に、実際起きた事を無かった事にし、起きる前に戻る事が出来る。言うなれば、時を巻き戻す力に近い力である。この力は虚無の魔眼を見せた相手にのみ発揮する。先程2人に虚無の魔眼を見せたのはこれを行う為であった。南の大国シルフで、カイルがハイド(ベリエル)に優勢だったがそれを一気に覆されたのも、この力が原因である。(第18話参照)そしてグロードが気がついた時にはヒスイは既にベリエルの黒い槍に突き刺されており、引き抜かれたと同時に後方へと倒れていく。「ヒスイ!!!!」ヒスイが倒れていく姿を見て叫ぶグロード。何故こうなったのか、考える余裕さえ無い。目の前で妻が刺された事に対する怒りがグロードの心を真っ赤に染め上げる。そしてグロードは空間移動でベリエルの元まで転移し、ベリエルの胸ぐらを掴む。「ぐっ!…」この時、何故かベリエルは虚無の魔眼を見せてこなかったが、この時はそんな事が気にならないくらい怒りの感情のみがグロードを突き動かしていた。怒りが爆発したグロードは胸ぐらを掴んで動けなくなったベリエルの顔面を拳で連打した。「うおおおおおお!!!!」ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスッ!……!何度殴っただろうか。何故か無抵抗のベリエルをグロードは怒りのままに殴り続けた。そして、右拳に魔力を込める。全属性を操れるグロードは、右拳に全属性の力を纏った。全属性とは、基本属性である8属性(火、水、風、雷、土、空間、光、闇)。これらを全て併用すると、相反する属性同士が互いを弾き合う。普通に使えば術者に影響が及ぶ危険な行為。しかしグロードは呪いにより死なない不死身の身体である為、その様なリスクが無い。無尽蔵に溢れ出る魔力を、右拳に纏った全属性の魔力へ更に加算する。魔力が増えれば弾き合う力も更に強化される。グロードはその強大すぎる力を全て、ベリ
ラウスが産まれてから5歳になった頃。未だグロードはベリエルを見つけられずにいた。その日は休日出勤で働きに出ていたヒスイの代わりに、グロードがラウスの世話をしていたのだった。「お父さん!」グロードの所まで走って近づくラウス。ラウスは髪色は母親譲りの綺麗な白銀であったが、顔はどちらかというと子供の頃のグロードに似て優しそうであった。「どうしたんだ、ラウス?」「この魔法書に書かれてるやつが分からないんだけど、教えて欲しい。」ラウスはどうやら魔法書を見ながら勉強しており、グロードは分からないところを教える為に一緒に見た。ーーこうしてると、ベリエルに勉強を教えてた頃を思い出す。一瞬ベリエルを思い出したが、すぐにその思い出を振り払った。「(いかん!ラウスはあいつとは違う!あいつはもう弟じゃ無い。憎むべき男なんだ。)」グロードは邪念を払う様にして、そう自分に言い聞かせた。「どうしたの?」「あっ…えっと、何でも無い!…ここが分からないんだな?」グロードはラウスが聞いてきた分からない部分を見て驚いた。「(…これは…高等魔法の専門書じゃ無いか。とても5歳が理解出来るレベルじゃ無いぞ。)」ラウスは魔法の理解力が異常に高く、それは紛れもなく10歳で実用性のある魔法を発明していったグロードの血筋であった。「ここはな、こうだから……。」噛み砕いて教えたつもりだがどうしても難しい専門用語を使う為、高校生でも理解が困難なレベルであった。しかし、ラウスは。「ありがとう!それだけ分からなかっただけだから!」 そう言ってラウスは専門書を持って部屋に戻って行った。ーーあの難解な本の一部分が分からなかっただけ?「…凄いな。流石は、俺の息子だな。」5歳にしては凄まじい魔法の才能を発揮するラウスに驚いていたが、自分の息子がこれ程の才能を持っている事に対して誇らしくなった。それから7歳になって少し身体が大きくなったラウスは体術の面でも凄まじい才能を発揮していた。「やああ!!」ラウスは殴る時に上記の様な子供っぽい掛け声を出すものの、それまでの動きが凄かった。グロードは手加減してるものの、まるで次に動き出す足の動きが見えているかの様にラウスは予測していた。その様子をヒスイはちゃんと見ていた。その夜、ラウスが寝静まった時にヒスイから話があった。「あの子、
月の遺跡から現れた古の化け物達が世界中を暴れ回った事により、多数の他国の人が亡くなったこの事件は世界中で瞬く間に広がった。現去流時(げざると)で生き返るのは、同じ種族の人間のみ。つまり、月の民が生き返った事により他国の人間は殺されて亡くなったままであった。これにより、今回の首謀者は今まで古の化け物達を野放しにし続けてきた月の民の責任だと言われ、これが更に月の民達への差別が助長される要因となった。この差別は風化される事が無く、時間と共に他国からの恨みばかりが募っていった。一方、古の化け物達を倒し世界の人々を救ったと持ち上げられたグロード。彼は世界の英雄として一躍有名人となった。沢山の人に賞賛され、感謝される日々。中にはグロードが古の化け物達を倒した事を記す為、絵物語を書きたいと懇願してきた絵師も居た。ーーもう、好きにしてくれ。投げやりに全てを受け入れるグロードは、ほとぼりが覚めるまで、人々の"英雄ごっこ"に付き合った。そして50年が経った頃には彼の事を知る者が死に去っていき、その頃にはもうグロードの事を英雄と呼ぶ者は居なくなっていた。50年も経てば時代の流れもそうだが、人々の価値観や文化も大きく変わっていく。しかし、変わらないものもあった。1つは月の民の差別。これはいつまで経っても、古の化け物達が世界中を暴れ回り、その生まれ変わりが現在の月の民だと後世に語り継がれていた。その為、実際古の化け物達が暴れた所を見た事がない後世の人々も、月の民が恐ろしい存在であるという価値観だけ植え付けられていた。そしてもう1つ変わらない事がある。これは50年経つ前から感じていた事だ。歳を取っていない。グロードは40歳の姿から変化が見られ無かったのだ。何故変化が無いのか?それはベリエルが掛けた呪いのせいであった。ベリエルはリオ王国の人達を超月食の日に自身の生命エネルギーに変換させ、それによってベリエルは不老不死となった。そんなベリエルに掛けられた呪いにはある条件があった。「この呪いは、術者が死ぬまで継続されるものである。」つまり、これはベリエルが死ぬまで呪いが解けないという事だ。不老不死になったベリエルは死なない為、呪いを掛けられたグロードとアガレフも必然的に不老不死となってしまった。これが、2人が400年間死ぬ事なく生き続けてきた理
それからもグロード、アガレフ、ベリエルは共にリオ王国で平和な日々を過ごしていった。グロードはあれから魔法の鍛錬を積んでいったが、時々月の遺跡へ出向いてアマルとサマスに修行を付けてもらう事が増えた。アガレフもグロードと一緒に月の遺跡へ出向き、修行を付けてもらっていたが彼には既に沢山の弟子が居た為、都合が合わない日が多かった。そしてベリエル。彼はこの頃になると部屋に閉じ篭もる事が増えた。理由は分からないが、何を聞いても調べ物をしてるだけだと言い、詳しい事はグロードとアガレフに教えようとしなかった。一度気になったグロードとアガレフはベリエルの部屋に行ってみた。扉の前でアガレフがグロードに言った。「ベリエルの奴、朝から部屋でずっと何かしてるみたいなんだが…どうも様子が変なんだ。」「ああ。確かに変だ。ベリエルがこの部屋に閉じ篭もってる間、一切の魔力を感じないからだ。」異変に気付いたのはグロードも同じであった。魔力を感じない。というよりも、まるでそこにベリエルが存在していない様に感じられた。気になったグロードはベリエルの部屋の扉をコンコンとノックした。数秒待っても反応は無く、静かなままであった。「…やはり様子が変だ。扉を開けるか?」「待て、アガレフ。流石に勝手に入るのは…。」すると目の前の扉がギィィッとゆっくり開く音が聞こえてくる。中からは相変わらずクマが酷いもののいつもの変わりない表情と姿、そして魔力のベリエルが出てきた。「…どうしたの、兄さん達?」何故か扉の前にグロードとアガレフが居た為、キョトンとした表情で2人を見ていたベリエル。「…いや、…何でもない。ずっと部屋に閉じ籠ってるから心配になってな。」「そ、そうだ。偶には、外に出て身体を動かしたらどうだ?」さっきまで魔力が感じられなかったベリエルはまるでそこに居ない様な気配であったが、突然その場に現れた様な気配に2人は驚く。しかし、一先ずベリエルに変わりがない事を確認して2人は安心した。「……んー、確かにそうだね。偶には身体を動かさないとね。…明日、久し振りに兄さん達に稽古を付けてもらおっかな!」グロードとアガレフにそう言われて頭を傾げ、少し考える様な間が気になるがすぐに笑顔になった。それを聞いたグロードとアガレフもベリエルに釣られて笑顔になった。「ああ。勿論だ。」「
アガレフは家の前で見送ってくれるリーナと、彼女に抱き抱えられているミーナの方を見た。 あの赤ん坊の頃に比べると少し大きくなったミーナ。金髪で青い瞳に綺麗な顔立ちが、どことなく母親であるリーナに似てきた気がした。 「じゃあ、行ってくる。」 「…うん。ずっと、待ってるからね。」 そう言ってアガレフとリーナは最後の口付けをした。 そして最後にミーナの方を見た。 「おとー。おとー。」 手を伸ばしながらお父さんと呼ぼうとしてるミーナ。その純粋無垢な瞳には、今日を最後に会えなくなるなんて微塵も思っていないのが分かる。 アガレフはミーナの額に手を当て、撫でながら言った。 「ミーナ。これか
「ハァ、ハァ!カイル君、どこ行ったんだろ?」王宮へ走りながらカイルを探していたフィナ。死力を尽くして国を守った人が突然姿を消し、その安否が気になり気付いたら王宮の方へ走っていた。王宮までの距離は長く、近づくにつれ擬似・ブラックホールによる被害が大きくなっている。その悲惨な光景を見る度に胸が締め付けられる。「(ここの花屋さん、いつも店の人がニコニコしながら花の事教えてくれてたな…部屋に赤い椿を飾ったな。…あっちのパン屋さんではよく巡回してた時、こっそり買って食べてたな。)」そう考えてると悲しくなり、更に目から涙が溢れていく。何で、こんな事になったんだろ…幸せだった筈なのに。そし
グレンがネルの作った巨大な悪魔の化身を黒炎で燃やし尽くしてからも死闘は繰り広げられた。「うおおおお!!!」悪魔の手(デビル・ザ・ハンド)の力で離れた位置から殴ろうとするグレン。「そう同じ手に何度も掛かるわけが無い!反(リバース)魔法!!」ネルは反魔法による反発の力を全身から発し、遠距離から放たれる黒炎の爆発を弾いた。「フフフ!もうその拳を対処する方法は見つけたよ。」「ならばこれならどうだ!」右腕に発動した悪魔の手の力でネルを捕まえたグレン。そして、思いっきり右腕を内側に振り切るとそれと同時にネルは腕の振る方向へと吹き飛ばされ、周囲の建物を貫通しながらぶつかっていく。悪魔の手
ドゴーン!!!突如、騎士団の本部から東に2km程離れた王宮の半分が突如半壊するのが見える。半壊した王宮の瓦礫は町中に雨の様に降り注ぎ、建物を次々に破壊していく。その光景をシルフの魔法騎士団達は見ていた。「バグーラ団長!…たった今、王宮の半分が何かの衝撃によって崩れた模様です!」「これは…ここまで力の差があったとは…フィナ様…。」祈る様に手を合わせる中、バグーラ団長に更なる報告が降り注ぐ。「バグーラ団長!更に王宮の方から何やら大勢の人影が見られます!」王宮の方を見ると横一列から大勢の人が並んでこちらに向かってくるのが見える。その人々の正体とは。「何だあの人達は!悪魔の襲撃か







