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第13話 南の大国シルフ

last update Last Updated: 2025-12-25 19:19:59

その頃、ミーナ達はグレンとカイルが乗った馬車と離れてしまい、現在は残った人達を騎士団達は馬車の外に集めさせた。

しかし、集められた一般の人達は数日前の事件から現在まで散々な目に遭っている為不満が高まっているのか騎士団の人達に文句を言っていた。

「どういう事なんだよ!馬車が無くてどうやって移動するんだ!」

「お前ら騎士団だろ!俺たち今物凄く困ってるの見てわかんねーのかよ!」

「そうよ!私達はこれからどーなるのよ!」

「何とかしろ!騎士団だろ!」

口々に罵声を飛ばす一般の人達。無理もない。つい数日前までは平和に過ごしていたのだ。

急にこんな事が続けば誰だって普通じゃいられなくなる。

しかし、一般の人達はそれ以上に耐えられない事があった。

それは。

「そもそも!なんでそこにいる盗賊どもは殺されてないんだ!そんな奴らさっさと殺しちまえよ!」

そうです。今回馬車を襲撃した盗賊、エミル達がいるからである。

エミル達の事はミーナがエバルフに事情を話して分かってもらえたが他の人は納得いかない。

自分達をこんな目に合わせた盗賊を何故生かしているのか理解できないでいた。

「こいつらのせいで沢山の人が死んだんだぞ!」

「そうだ!そいつらにも同じ目に遭わせろ!」

「殺しちまえよ!そんなクズ盗賊なんて!」

「みなさん!お気持ちは分かりますが…どうか落ち着いてください!」

「うるせー!そもそも騎士団がしっかりしてねーのが原因なんだろーが!俺たちこれからどうしたら良いんだよ!」

一般の人達の怒りはもはや誰にも止める事が出来ず、他の騎士団達も困っていた。

エミル達はそれを只々うつむきながら聞き、ミーナはそれを見て悲しそうな顔をした。

「エミル…さん…」

すると1人の男性が騎士団の人を押しのけてエミルの前に来た。

「もういい!こいつが主犯だろ?お前ら騎士団が殺さねーなら俺が殺してやる!」

そう言って男性は騎士団の剣を奪おうとするがそれを阻止する為に他の騎士団達が止めに入った。

「おいやめろ!お前らいい加減に…」

「やめないか!これ以上イフリークの伝統に傷を付けるな。」

すると、いかにも高級な衣服に包まれた白髪で凛々しい顔をした中年の男性の言葉で一般の人達は一瞬で静まった。

「い、イフリーク王!」

なんと、その人物というのはイフリークの王であつた。

その男は高価な服装を纏っている割にはどこか威厳に欠けた部分があり、どちらかと言うと王には見えない優しそうな人であった。

男性はイフリーク王を見て驚き、剣を奪おうとする手を止めた。

「その呼び名はよしてくれ。私は5代目国王、ミロゼ・イフリートだ。そなたがこの子を憎む気持ちは痛いほど分かる。」

「…私は、どうしても納得いかないんです!昨日まで…俺たちは普通に暮らしてたのに、何の前触れもなくその"普通"が無くなった…。」

男性は顔を下に向けながら言うと地面に水滴がポタポタと滴っていた。

「何で…何で俺たちがこんな惨めな思いをしなければならないんですか!こんな訳も分からないこの状況を…俺たちは一体、どこにぶちまければ良いんですか!?私達は、どうなってしまうんですか!?」

「…顔を上げなさい。」

男性が顔を上げてイフリーク王を見た。

そして、イフリーク王はみんなに聞こえるぐらいの声で言った。

「皆の者、これだけ言っておく。大切な人の仇だからといってその者を同じ様な目に合わすという事は何の解決にもならない。殺したからって何が変わる。そんなのは自分の憎しみをただ何かにぶつけたいが為の言い訳にしかならない。」

「かと言って、この3人が犯した罪はとても重い。だがその罪は皆が裁くのではない。法に従って適切な罰を与える。それが、人間の世界のルールだ。納得いかないなら今はそれで良い。殺して解決するというのはそこらの獣と変わらんぞ。」

その場にいる全員がイフリーク王が言ったこの言葉の意味をすぐに理解しているとは思えない。

でも、この説得力のある言葉に対しこの後反抗の言葉を言うものはいなかった。

男性は3人の方に視線を向けるとそのまま睨んで舌打ちをしながら元の場所に戻った。

「さて、移動の事だがどうしたものか…ここからシルフまで歩いていくしか移動する手段がない。ここで新たな馬車を待つよりはずっと早いと思うが…」

「い、イフリーク王!歩くって言ったって、ここからシルフまで何百キロ離れてると思ってるんですか!?」

イフリーク王の無茶な言葉にエバルフは驚きながら言い返した。

「第一、食料や水も無しにこの砂漠地帯を歩くのは厳しいかと思われます。それに、このティラーデザートには凶暴な猛獣もいますし国民全員を連れて行きながらはやめた方が…」

「水なら大丈夫…私が何とかするわ。」

シルフの騎士団の声をかき消す様にエミルが口を開いた。

「水は、私の魔法があれば干からびる心配は無いと思う。食料も、騎士団や私達がいれば猛獣を討ち取って他のみんなに支給すれば大丈夫な筈です。以前私もそうやってこの砂漠を越えました。」

「ふざけんな!お前の言葉なんて信用できるか!そう言って俺たちから逃げようって戦法だろ!」

エミルの言葉に耳を貸そうともしない国民の人達にイフリーク王は静まれと言って、国民の人達を黙らせた。

「しかし、どの道この者の水が無ければ砂漠を越える事は無理に等しい。…分かった、エミルとか言ったな?どうか我々に水を分けて貰いたい。」

そう言ってイフリーク王はエミルに頭を下げた。

それを見て他の騎士団の人達は慌ててイフリーク王を止めに入る。

「おやめ下さい!王ともあろうお方がこの犯罪者に頭を下げるなど…」

「馬鹿もん!王だろうと人様に頼み事をする時は頭を下げるもんだろうが。…どうか頼みます。」

イフリーク王はさらに深く頭を下げた。

「はい。私の力で良ければ。」

エミルも照れながら了解した。

「……」「……」

その光景をライクとニケルは何かを思いながら見ていた。

「しかし、お前たちは罪人だ。移動中の間はこの拘束魔具を付けてもらうぞ?」

そう言って騎士団の人達が拘束魔具を3つ持ってきて、それを3人にはめようとした。

しかし、何故なのかライクとニケルは手を前に出そうとしなかった。

「ほら、お前!早く手を前に出さんか!魔具がはめれんだろ!」

騎士団の人が無理やりライクの腕を掴んで魔具をはめようとしたその時。

ガッ!

ライクは大きく足を上げると痛烈な蹴りが騎士団の人の顎に直撃し、全員がそれに驚いてる間ニケルも騎士団の腹に拳をぶち込んだ。

その後、2人は全員から距離を取るとライクはワナワナと震えていた。

「…ふ、ふざけんなよ。さっきから好き勝手言いやがって!」

騎士団の人達が距離を取ったライクとニケルを捕らえようとするがニケルの風魔法で2人の目の前に見えない壁が出来て進まなかった。

そしてライクは怒りを露わにしながら全員に言い放つ。

「何が法に従って適切な罰を与えるだ!お前らが月の民にやった事は棚に上げやがって!」

「ライク!何を…」

「お前もお前だ!エミル!前に住んでた国の王か何か知らんがそいつにちょっと褒められたからって良い気になりやがって!お前は俺たちを裏切ったんだよ!」

頭に血が上りすぎて息が上がっているライクの肩をニケルはポンと叩いた。

そして今度はニケルが落ち着きながら全員に言った。

「エミル。僕らはね、君の事を本当の仲間だと思って今日まで過ごしてきた。月の民の殆どが死んでから僕たちは辛い日々だったけど、ライクとエミルがいた事で僕は救われたし、本当の家族のように思えた。」

「だけど、そんな君は僕らよりもイフリークを取った。その事実は僕らにとってどれだけ辛い事なのか…今の君には分からないかもね。」

「……」

エミルは何も言い返す事が出来なかった。

私は、ライクとニケルのお陰で1人にならなくて済んだ。けど、今の私には大切なものを守らないといけない使命がある。

結果的にはライクとニケルを裏切った事になってしまったけど、私は大切なものを守る為に罪を償わないといけない…本当に自分勝手だよ、私は。

「…ごめんね…ッ…私が…自分勝手だから…ッ…ヒグッ…」

「何泣いてんだよ!泣きたいのはこっちなんだよ!」

ライクはすすり泣くエミルを見て腹が立ったのか先程よりも大声で怒鳴った。

「いいか!俺たちの目的はこの世界に復讐する事だ!俺たちの故郷を…家族を奪った世界を…俺たちは絶対に、許さない!!」

「僕もだ。イフリークの王よ、あなたがさっき言った罰を与える。これって、君達も受けるべきだよね?僕たちにした事を考えればさ。まあ、僕たちはもう二度と君たちの思い通りにはならないよ。」

そう言ってライクとニケルは後ろに振り返ると最後にライクが最後にボソッと小さな声で言った。

「エミル、幸せになれよ。」

そう言って、2人は自身の魔法で地面から雷と風を発生させるとその場から一瞬で消えた。

ライクとニケルが去ると、風魔法の見えない壁が消えて無くなった。

騎士団の人達は2人に逃げられたので悔しそうに嘆く。

「くそっ、なんて奴らだ!」

「あんな恐ろしい盗賊を逃してしまうなんて…」

バタッ!

エミルはその場にヘタリ込むと両腕で自分の目から流れてくる多量の涙を拭いていた。

それを見たミーナはそっとハンカチを差し出し、これで涙を拭いてとエミルに渡した。

「ありがとう…私、あいつらを…」

「違いますよ、エミルさんはこの国の事を考えていただけです。その為にエミルさんは罪を償う事から始めなければならないと気づかれたのかと思いました。とても厳しい選択だったと私も思いますよ。」

「でも…」

「それに、あのライクって人はエミルさんの事を裏切り者とは思ってないんじゃないですか?だって、あの2人エミルさんの笑顔を見てとても満足そうな顔してましたし。」

「…そんな訳…そうね、そうだったら良いわね。」

「はい!そう思いました!」

エヘっと下手な作り笑いをするミーナにエミルは不意に吹き笑いをしてしまった。

その頃、自身の魔法で超高速に移動するライクとニケル。

「………」

「いつまで泣いてるの、ライク?そんなにエミルと離れるのが辛いのか?」

「そ、そんなんじゃ…って、そういう事だけどさ!…やっぱり、あの国の人らはあいつを必要としてるから俺たちがあいつを裏切り者にして自由にしてやるのが1番なんだよ。」

「プッ…」

「何が可笑しいんだよ!」

笑うニケルに照れながら怒るライク。

「いや、だってさ!君がそんなカッコいい事言ったらこっちがこっぱずかしいし、それに…君の気持ちを考えるとさ…」

「…うるせー!俺は何も後悔なんてしてねーぞ!それに、あいつにはあのカイルって男がいるからな。」

「…そっか。それならもう何も言わないさ。」

「そうだ。今は一族の仇を取る事が先だ。俺達が罪を償うのはその仇が取れた時だ。」

そう言って2人は移動するスピードを更に上げた。

それから私とイフリークの国民達、騎士団の人達はシルフを目指して歩いた。

通常、砂漠地帯でティラーデザートの気温は最高で60℃以上上昇する強烈な炎天下で被覆なしで直に日差しを浴びるのはとても危険。

エミルの水魔法で作ったドーム状の膜を周囲に張っている為気温は比較的マシであるが日差しは防げず皮膚が焼けそうだ。

ドーム状の水の膜は私達の動きに合わせて移動し、国民の人達が歩いてる周りを騎士団達は取り囲みいつ猛獣が現れても戦える準備をしている。

しかし、この炎天下。国民の人達も騎士団の人達も暑さによって足がふらつき、意識がもうろうとして倒れる人もいた。

周囲の人達は倒れた人を助ける元気が無く、みんな自分の事で精一杯な為振り返ろうともせず黙々と歩いて行く。

倒れた人には再び立ち上がって歩く者と立ち上がる事なく移動する水のドームから出てしまい置いてきぼりにされる者もいた。

置いてきぼりにされた者は強い日差しによって皮膚が焼け、体中から熱気が上がっていた。

「アガァッ…アヅイ…ッ…た、助け…で……」

そしてその焼けた匂いが砂漠の猛獣を引き寄せる餌で、倒れた者の大半がこの砂漠の一部となっていった。

私はエミルさんの横で必死に頑張って歩いていた。

エミルさんは砂漠を歩く際に魔法を絶えず消費しなければいけない為、他の人の倍は疲れるはずなのにそんな感じを一切出さずに涼しい顔をして歩いていた。

「エミルさん、凄いですね…暑くないんですか?」

「私は昔から暑さには慣れてるのよ。それに何年もここで過ごしてたから流石に慣れたかな。」

私とエミルさんが話をしていると後ろからカレンさんが声を掛けてきた。

「ミーナちゃん、喋ると余計な体力を使うわ。今は歩く事に集中よ!」

「ごめんなさ~い。」

ミーナは軽くカレンに謝る。

2人は馬車の中で沢山の会話をし、お互い更に仲が深まったので2人とも気を使わない会話が出来る様になった。

年上であるカレンは自分と気の合う年下のミーナに気軽な返答をしてくれた事にちょっと嬉しそうだった。

すると突然目の前の砂の中からサメの背びれの様な物が無数に現れ、その背びれの集団はミーナ達の方に向かって来た。

「何だ!あの魚の背びれの様な物は!無数にあるぞ!」

するとその背びれの集団は全員勢いよく砂から飛び上がった。

「デザートシャークだ!!喰われるぞ!」

デザートシャークとは、砂漠地帯に住んでいるサメの様な姿をしている巨大な猛獣で普通のサメと違い手足がある。

この手足は砂を掻いて移動する他に餌となる生物を鷲掴みにして人が何人も入れそうな口に放り込む凶暴な生物だ。

デザートシャークは口を大きく広げながら国民達に向かって勢いよく飛び込んできたが水のドームのおかげで喰われる事は出来なかった。

「私の魔法である程度水の強度は上げてるが大群で来られたらマズイわ。」

しかし、それを待つ事なく無数のデザートシャークは水のドームに向かって飛び込んで来た。

その威力によって水のドームに亀裂が入る。

「このままじゃマズイ…くっ!」

エミルは走って水のドームから出ると自分の体を纏える程度の水の膜を張った。

デザートシャークはエミルが外に出た事により、全匹エミルの方に向かって飛び込んできた。

「エミルさん!危ない!!」

するとエミルは掌を上げるとそこから水の球体が発現した。

そしてその球体は徐々に渦を巻いていくと巨大な渦巻きに変わり、その渦巻きはデザートシャーク全匹を飲み込んでいった。

飲み込むと渦巻きはデザートシャーク全匹を密閉した水の球体に縮小し、エミルは手で招きながらその球体を自身の近くまで移動させた。

そして移動させた水の球体にそっと触れると球体の中で物凄い振動が伝わり、デザートシャーク全匹はその振動によって意識を失った。

「す、スゲー…あの無数のデザートシャークをたった1人で…」

「これが、団長と同じ神級魔導士の力なの…桁が違うわね…」

エバルフとカレンはエミルの圧倒的な強さを見て唖然としてる中、ミーナは逆にテンションが上がっていた。

「凄い!!これがエミルさんの力なの!?カイル君も凄いけどエミルさんも凄いですね!!」

はしゃぎながらエミルに向かって言うミーナを見てエミルは困った反応をしていた。

「あの子、随分変わってるな…。」

エミルが倒したデザートシャークの肉を騎士団の人達が国民の人達に行き届くように仕分けた。

砂漠を乗り越える為、食べられる時に食べておかないと倒れていった人達の様になってしまう。

ミーナとエミルは貰った骨つき肉をかじりながら2人で一緒に食べていた。

しかし、エミルは食が進まず浮かない顔をしていた。

「どうしたのエミルさん?」

「…いえ、何でもない。」

「あの時の事…思ってたんですよね?」

「……」

あの時の事。それは自分の親友のハンジを操られていたとはいえ自分の愚かな感情を利用され、事実上私が殺してしまった。

それはエミルの中に一生残るトラウマだと思う。

「私はあの時イフリークに帰って2人が仲良くしていたのを見た。その時に抱きしめていたのを見て私はとても胸が苦しかったのを覚えてる。」

「エミルさん…」

「でも、それは別れを言わなかった私が悪かったんだ。誰だって辛い時に側に居てくれたら、その子の事少なからず好きになってしまうもんね…私も、ずっとあいつの側に居てたら…」

「エミルさん、聞いてください。カイルさんはハンジさんの事好きだと思いますけど、それは友人としてです。カイル君の本命は…」

「嘘よ!そんな気休めやめて!」

「嘘じゃないです!カイル君があの日ハンジさんを抱きしめたのは、お互いの辛い気持ちを癒す為に抱きしめてたんです。」

エミルはそれを聞いて疑問に思う。

お互い?

「ハンジさんの親は10年くらい前に他の国へ行ってから行方不明何です。けど、その辛い気持ちを打ち明ける事が出来なくてそれを初めて打ち明ける事が出来たのがカイルさんなんです。」

「カイルさんとハンジさんは別に恋してたから抱きしめてたんじゃなくて、自分の辛い気持ちをそれ以外で癒す方法を知らなかっただけなんです。」

感情というのは時として自分で制御出来なくなる時がある。

そんな時、誰かが側に居てくれるだけで人という生き物は心に余裕ができる。

カイルもハンジもお互いが側に居てくれる事で心に余裕が出来たのかもしれない。

しかし、そこからきた勘違いというのは相手からだと受け入れにくい現実でエミルもそれを受け入れるのに時間がかかった。

それからエミルは気持ちが落ち着くまで黙って食事を取り、しばらくすると騎士団とイフリーク国民の集団は再び砂漠の道を歩き始めた。

この先、何人の犠牲者が出るかそんな事は誰もまだ分からない。

それでも、こんな状況だからこそお互いを支え合っていかなければ…いざとなれば自分を犠牲にしてでも皆を守る!

その思いを抱きながらエミルは握り締めた拳を見つめ果てしなく続く砂漠道をひたすら歩いて行く。

一方、グレンとカイルも砂漠道を歩いているがその間2人に会話という会話は殆どあらず黙々と歩いていた。

沈黙の中、カイルが口を開きグレンに向かって言った。

「………なぁ?」

「なんだ?」

「聞きたい事がある。お前と一緒に旅してるミーナちゃんの事でだ。お前、あの子の事どう思ってる?」

「どう思ってる?」

「お前が悪魔祓いになった経緯は聞いてその契約を破棄する事がミーナちゃんの目的だってのも聞いた。お前の心を取り戻す為に頑張ってるミーナちゃんを見てお前はどう思うんだ?」

カイルは前にいるグレンを真剣な眼差しで見つめた。

しかし、グレンは振り返る事なく軽く受け流すように答えた。

「別に、無駄な事する馬鹿な女としか思ってない。あんな脳みそお花畑な奴に俺の中にいる悪魔がどうにかなるわけない。それに…」

「じゃあ、なんでお前はミーナちゃんを助けるんだ?」

その質問にグレンは答えられず、カイルは続けて言った。

「お前は期待してるんじゃないのか?ミーナちゃんに自分の心を救ってくれる事に、期待してるんだろ?」

「下らねえ事言ってねえでさっさと歩け。もうすぐでシルフに着く。」

話を逸らすかのようにグレンは言い前を指差すと遠くから街の建物などが小さく見え始めてきた。

「なあ、お前確か空間魔法使えたよな?あそこまで空間魔法で移動出来ないのか?」

「ダメだ。シルフは四大国の中でも1番警備が頑丈な国。国の周りには結界が張られていて空間魔法といった移動する魔法は全て無効化される。お前、団長の癖にそんな事も知らないのか?」

「だ、黙れ!俺はシルフへは行った事無かったから仕方ないんだよ!」

冷めた目でそんな事も知らないのかと言いたそうな顔をするグレンにカイルは顔を真っ赤にして言い返す。

その時、2人が歩いてる地面に突然大きな穴が空いた。

2人は焦って地面を掴もうとするがその穴はまるでアリジゴクの巣の様に掴んだところが崩れてしまう。

「何だ!?急に地面が…」

「こいつは…ゲイルアリジゴクだ。この砂漠の主と言っても過言じゃない化け物だぞ。早く上がれ、食われるぞ!」

ゲイルアリジゴクの巣は普段は獲物に気づかれない様に巣を地盤で隠しているが獲物が足を踏み入れた瞬間、一気に地盤が崩れ直径50メートルぐらいの巨大なすり鉢状の穴に変わり獲物を捕らえる。

その巨大な穴はアリジゴクの巣と同じで砂を掻けば掻く程どんどん下に落ちていく為、空間魔法を使わない限り脱出不可能とされている。

当然、空間魔法を使えるグレンはとっくに脱出していたのだった。

「あっ!テメェ自分だけずりーぞ!俺も助けろよ!」

「そんな事知らねーよ。そんな事より早く上がれよ。アリジゴクもお前を食べたくてウズウズしてるみたいだぞ。」

下にはゲイルアリジゴクがお腹を空かせているのか中心部から顔を出して大きな二本のアゴを動かして待っていた。

カイルはそれを聞いて冷や汗を流し、思いっきり砂を掻いて上がろうとするが上がるどころかどんどん下に滑り落ちていく。

流石に危ないと思ったのかカイルは鞘から剣を抜いて自身の影を一定範囲広げた。

そして剣を振るとゲイルアリジゴクの二本のアゴが切れ落ち、何とか食われるのだけは回避したが剣を振った勢いで体制を崩して倒れてしまう。

砂が柔らかい為、倒れた直後に顔が砂に埋もれてしまい身動きできない状態になった。

「あのバカ…何してんだ。」

グレンは流石に焦ったのか空間魔法でカイルの所へ移動して埋もれた顔を引っ張り上げた。

「ぷはぁー!助かっ…うぁぁあああ!!!」

カイルが気付いた時には既にゲイルアリジゴクの目の前に滑り落ちていた。

ゲイルアリジゴクは落ちてくる2人をそのまま食べようと口を広げ待っていた。

「ヤバい…こうなったら一か八かだ!」

グレンは最後にそれだけ言うと2人はそのままゲイルアリジゴクの口の中に吸い込まれてしまった。

……ここは?

意識が薄い中、目を開けるとどう言うわけか自分達を食べようとしたゲイルアリジゴクが今自分達の目の前に倒れていた。

地面もアリジゴクの巣でなく普通の地面に戻っていて一体何があったのかカイルは状況を全然把握できなかった。

「何で俺達を食べようとしてたこいつが倒れてる!…お前がやったのか?」

グレンに声をかけるが意外な事にグレンも分かっておらず無言で首を横に振った。

「俺もよく分からん。俺はこいつに食われる寸前に黒炎をぶっ放して自分だけ脱出しようとしたんだが気がついたらこんな所に立っていた。」

「つくづくお前はクズ野郎だな。そこまでして自分の命が大事か?」

「当たり前だ。」

「ハァー。全く意味が分からねえよ昨日から。もういいや、さっさとシルフへ…」

カイルが前を振り返ると2人は何故かシルフの目の前にいて既に到着した状態だった。

「俺も今混乱してる。空間魔法も使ってないのに何故だ?」

「こっちが聞きてーよ!!」

カイルは混乱しながらグレンに怒鳴っているとシルフの門から1人の女性が現れた。

2人は女性に全く気づいておらず言い合いを続けているが女性は門から出た途端一気に2人の背後に現れた。

「その事については私が説明しましょう。」

「!?」 「なっ!」

2人は背後を取られたのに全く気づかなかった為、慌ててその女性と距離を取った。

女性は髪が桃色の一つに纏めたポニーテールに顔は柔らかい表情だがどこか大人びた感じの清楚な女性。優しそうな人である。

「何だ、この女…」

「明らかに俺らの背後を気づかれずに…」

「びっくりさせてごめんなさい。それに私はー」

女性が優しい表情で2人に何かを言おうとした直後、先ほどまで倒れていたゲイルアリジゴクが目を覚まし女性に向かって襲ってきた。

「おい、危ないぞ!」

カイルが助けようとした直後、2人の体によく分からない不思議な感覚が体中を巡る。

まるで水中で体を動かしてるみたいに動きが遅く感じる。

その感覚が無くなり、気がつくと目の前のゲイルアリジゴクの腹が切り裂かれていて絶命していた。

今のでやっと確信した。俺達が何故シルフの目の前にいるのか…何でゲイルアリジゴクが俺達が気づかない間に殺されているのか…。

それに気づいてるのは俺だけではなく、グレンも気づいている筈だ。

気づいてる筈なんだがグレンは何故かその事について聞こうとしなかった。

「お前がやったのか?まあ助かった、ありがとう。」

グレンは相変わらず口が悪いが素直に礼だけ言った。

「お気になさらず。私はこう見えてもそこそこの魔導兵だから見ず知らずの人でも助けるのは当然です。」

女性はグレンの失礼な態度に怒る事なく、ニコッと笑顔を見せて受け答えした。

「おい、お前聞いただろ!この人はお前に失礼な態度を取られても怒るどころか優しく……いや~、こんな美人で優しい女の人が魔導兵なんて…魔導兵ってまさか…」

「気づくのが遅えよ。…魔導兵っていえばお前ら騎士団とは別の国王直属の警備隊だよな?なんでそんな奴がここにいるんだ?」

それに対して女性は暗い顔で俯いて。

「そうね、その話はまずこの国の騎士団の所でお話ししましょう。ここでは誰に聞かれているのか分からないですから。」

そう言って女性は門の方へ歩き、2人はその女性の後をついて行った。

この国は活気あるイフリークに比べとても静かでそして寂れている感じだった。

まだ昼の時間帯なのに自分達以外で街を歩いているのは他にいなかった。

シルフの騎士団の所へ着くと、グレンが女性に質問した。

「何で騎士団なんだ?お前、魔導兵なら国王のいる宮殿の方だろ普通。」

「説明は後です。では、中に入りましょう。」

そう言って女性は騎士団の門を開け、3人は中に入った。

入ると酒場の様なテーブル席があり、その奥の中央の席には温厚そうな円背姿勢の温厚そうなお爺さんが椅子に座っていた。

お爺さんはこちらに気がつくと女性に声をかけた。

「おぉ、フィナじゃないか。…と、その者達はもしかして…」

穏やかな声でフィナと呼ばれた女性に声をかけると、フィナもそのお爺さんに返答した。

「ええ、その通りよ。バグーラ団長。」

フィナの言葉にカイルは思わず声を出した。

「えー!!もしかして、あなたがシルフの騎士団団長…"鬼騎士"のバグーラ団長ですか!?」

バグーラと呼ばれたシルフの騎士団団長はグレンとカイルの存在に気づいたのか2人に声を掛ける。

「おぉ、そういう君はイフリークの騎士団団長のカイル君じゃないか。」

「俺の事知ってるんですか?」

「勿論。君は騎士団の中でも最年少で実績もあるからね。まあ立ち話もあれだ、ここへ座りなさい。」

バグーラ団長に言われ、2人は目の前の席に座った。

「そういえばこの赤い髪の男は?」

「あれ、あなたは…」

バグーラ団長は隣のフィナに聞くがフィナもグレンの事を知らないらしい。

「俺はグレン。悪魔祓い(デビルブレイカー)だ。」

自分の事を知らないと判断したグレンはあっさり自己紹介するが、悪魔祓いと言った瞬間辺りに居た騎士団の人達が慌てて席から立ちあがりグレンに注目した。

それを聞いたバグーラ団長とフィナもびっくりした表情でグレンを見た。

「あなたが、悪魔祓い?本物…なの?」

「何だ?悪魔祓いなのがそんなに怖いか?」

今までも悪魔祓いというだけで怖がる人や恨んでくる奴はいたがここまで恐怖に満ちた目で見られたのは初めてだ。

するとバグーラ団長が恐る恐る口を開き。

「す、すまない。一度シルフの国民達は君じゃないんだが悪魔祓いの1人に危害を加えられてね…初対面で失礼な態度は分かっているのだが見逃して欲しい。」

「そうなのか。いや、良いんだ。こういうのは慣れてるから。」

「本当にすまない…。」

申し訳なさそうにバグーラ団長は深々と頭を下げて謝った。

するとカイルはフィナの方を向いて口を開いた。

「フィナさん、ですね?先程は助けて頂いてありがとうございました。さっきの事で気になった事があるんですけど。」

「はい、何ですか?」

「さっき俺達はゲイルアリジゴクに食べられそうだったのに気がついたら俺達は助かってて倒れていたのはゲイルアリジゴクでした。それに、さっきもフィナさんに襲いかかった瞬間、俺たちが気がつかない速さでゲイルアリジゴクの腹を切り裂いてました。これは周囲の時間を遅らせていたからですね?」

「つまり、フィナさんは時間を操る魔法を使うんですね?」

カイルが自分の考察を言い終わるとグレンはため息を吐いた。

「ハァー、長々と誰でも分かるような事を…この女は陰陽魔術の1つ、"陽"の使い手だ。時間だけじゃねーよ。」

「私のこの力をご存知なのですか?」

「あぁ、陰陽魔術。この世には森羅万象、全ての万物には互いに相対する存在があり、それは"陰"と"陽"の2つに分けられる。万物の生成消滅、時間と空間、人間の性別などはそれらお互いに違うが片方が無くなれば世界は成り立たず、互いにあるからこそ世界の調和が成り立つ。この思想を元に作られたのが古代の魔法、陰陽魔術だ。」

「素晴らしいわ…初対面でここまで陰陽魔術について語ってくれたのは君が初めてだわ。」

フィナは驚きの表情を隠せなかったがそれ以上に自分の魔法を知っていた事に嬉しさも感じていた。

「そうね、あなたの言った通り私は陰陽魔術の1つの"陽"の力を先程は使いました。時間といった点はカイルさんも正しいですが、"陽"の力はそれ以外ではありません。これを見て下さい。」

フィナは自分の剣が収められた鞘に注目するように指差した。

すると、鞘に収められた剣が一瞬で消えると剣はいつの間にかフィナの目の前に抜かれた状態で宙に浮いていた。

「この様に私が剣を持たずに鞘から抜かれた状態で剣が浮いているのは、剣と鞘を分離させたからよ。あなた達もゲイルアリジゴクに食べられそうになったじゃない?その時も私、この"分離"の力を使ったのよ。」

この分離する力は、合成した物質を分解し元の状態に戻す、または物と物を引き離すといった力でゲイルアリジゴクに食べられなかったのもこの分離の力によって2人とゲイルアリジゴクは引き離されていたので助かったのだ。

「あー、ゲイルアリジゴクに食べられる寸前で俺たちはフィナさんの力によって分離されたのか。」

「そういう事よ。この分離の力は剣を抜くといった動作をしなくても剣が手元に現れるからとても便利なの。」

フィナは宙に浮いている剣を掴み、再び鞘に剣を収めた。

「そろそろ私の魔法については良いかな?」

「陰陽魔術…奥が深いですねぇ~。」

納得しきれていない腑抜けた顔のカイル。

確かに、普通の人じゃまず陰陽自体を理解する事が難しい上に陰陽魔術は学校の授業でも数回しか名前が出てこない為、一般ではあまり知られていないのだ。

「無知に何言っても同じ事だ。とっとと要件を言ってくれ。」

「むっ…ち!…(コノヤロー!!)」

無知と言われたのがショック過ぎたのか妄想でグレンを殴りまくるカイル。

「分かりました。先程にも言った通り、私はこの国の魔導兵の1人なのですがこの国に来てから、何か思うことなどはありますか?」

この国を見て思ったこと。それは、シルフに来てから2人がずっと思っていた事。

「人が出歩いていない。いや、まず人の気配がないし魔力もここ以外感じない。」

「あなた、複数の人の魔力を同時に感知できるの?」

「まあな。」

フィナに褒められても素っ気ない返答をしたため、次の話に移った。

「そう、この国には人と呼べる人は殆どいないの。8年前から、ある魔道士によって…」

「ある魔道士?」

「…12年前、私がまだ見習いの魔道兵だった時に1人の魔道士が国王の宰相になったの。名前はハイド・スペクター。その男の経歴はおろか、どんな魔法を使うのかも不明な謎の男。」

「ハイド・スペクター…聞いた事もないな。」

「噂では人の思考を操る魔法みたいに言われててハイドに関わった人はどういう訳かその人の言いなりの様になってしまうの。」

「思考を操る魔法?そんなの存在しないでしょ。学校でも習った事ないし。」

「確かにカイルさんの言った様に、思考を操る魔法は存在しないし、存在してたら社会的に悪用されるレベルじゃ済まないし。だからこの仮説は多分間違ってるわ。けど、国王の様子が可笑しくなったのはハイドが宰相になってからなの。何故なら…」

「ちょっ、ちょっと待ってください!国王が可笑しくなった?ちょっと話に付いて行けないですよ!」

カイルが会話に割り込み、フィナは話すのを止めると今度は今まで黙っていたバグーラが話に入って来た。

「フィナ様。気持ちは分かるが今はそんな事を伝えるよりもあの事を伝えねば。」

「…そうね、今は国王よりもあの事ですね。」

「あの事ってなんだ?」

「あなた達は月の民の戦争…いえ、あれは殲滅ですね。その事をご存知ですか?」

グレンは知らないがカイルはその頃まだ騎士団に所属していなかったがライクとニケルから聞いていたので話自体は知っていた。

「はい、話だけは聞きました。」

「そう、それなら話が早いですね。ここからはその真実だけをお話ししていくつもりです。」

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